成寿一覧表

成寿 第39号 〈アメリカ随想〉

カリフォルニア大学バークレー校日本研究センター五十周年記念大会に参加して

善光寺住職 黒田博志

 師資縁あって、カリフォルニア大学バークレー校、日本研究センター(CJS)ダンカン・ウィリアム所長のご案内とご招待を受け、去る、平成二十年五月十七日に行われた創立五十周年記念大会に参加する機会に恵まれました。私ごとき未熟者が参加できる大会ではないと思いましたが、私の師父、大圓武志大和尚の余光をいただき、大きな区切りの中に遭遇になります。稀の偶然ではないと思い、この由緒あるセンターの大会に坐して考えましたことは、よき師、よき友とのめぐり合いによって『自分という存在が、いま支えられ生かされている』という実感を、心底痛感させられたことです。

 私を導いてくれたダンカン隆賢ウィリアム氏は、ハーバード大学在学中、日本仏教史の博士課程に籍を置き、ひたすら仏教に傾倒された方です。
 善光寺との出会いは、一九九八年四月に日本滞在中、横浜善光寺留学僧育英会に留学僧認承のための論文を提出された事が縁となりました。その論文のテーマは近世曹洞宗史、曹洞宗本末帳の分析、檀家寺と葬儀、祈祷寺と現世利益、僧堂と雲水修行と多岐に亘りました。
 さらに研究課題を人間と人生の多様性に踏み込み、自身のアイデンテイテイーの確立を見い出しながら、日本の仏教に学び、行じ、特に道元禅と曹洞宗に捉われ深く熱く探究する。さらにはハーバード大学での研究も相合わせながら単に仏教という枠に捉われることなく、限りなく多方面にわたるべきと思考し、曹洞宗の歴史的実態に鑑みて哲学、歴史、心理学、儀礼論に限定されてはいけない、多角的に積極的に働くべきだと考え、国や宗教の境界線を自由に越え活動するという世界観をもつことこそ、二十一世紀の役割だとの信念をもっていらっしゃいます。
 この気概に師父も土ハ感、触発され、留学僧第十四回生として承認されるという経緯があり、以来、師父とダンカン氏は、仏教と世界観についての、これから進むべき方向性を共有してこられたと聞いております。
 この五十周年大会は単に歩いて来た足跡を振り返るのではなく、いま立っている処を確認し、これから行くべき道を画策しているように感じられました。

 記念パーティーには曹洞宗北米総監秋葉玄吾老師、仏教伝道協会沼田智秀会長、ほか内外関係、著名人約三百人が列席、大変盛大な式典でした。その中でダンカン氏は次のように語られました。
 『二十世紀、日本は未曾有の戦乱を経て平和国家をめざし、経済立国として世界の頂点に立つまで繁栄した。しかしながら、なにか大事なものを見失ったように見える。アメリカもまた世界の大国として、繁栄しつつも数多くの問題点を抱えている。二十一世紀は信仰心と文化の世紀となります。アメリカには真の日本が伝わっていないように思う。私は仏教を通して古来から伝わる日本の大事な文化をアメリカに紹介し、また、アメリカの社会でそれがさらに溶け合い新しい文化が形成できるのではないかと考えます。
 その思想の中心として仏教の教えが世の中を変えていくと信じています。このセンターの五十年の長きにわたる活動。そしてさらに両国の懸け橋となるべく続けられる活動に思いを巡らせます。』と。
 日本人でさえ忘れかけている古き良き日本。日本人が大切に育んできたそのこころを思うとき、故きを温ねて新しきを知るという言葉が頭をよぎります。このことは、仏教でしか実現しえないと思います。世界の平和、民族、宗教の融和など現実に直面し苦悩している。また世界の様々な境界、摩擦等、そしていま、最大の課題、地球温暖化環境問題にしても、世界各国は、自己のみの利権に固執するため、的確な解答が見出せないでいる状態。この様な複雑多岐な障壁を乗り越える力は、仏教にしかないと語るダンカン氏のこの大会に懸ける意気込みを全身に受け、気迫に圧倒される思いでした。氏は英国系二世、キリスト教社会と日本という仏教社会の両方を経験しているだけに非常に説得力があり、私自身大きな感動を覚え、氏に引き込まれてしまいました。
 私はこの大会に参加しこれまで数多くの先輩や老僧の方々が身を以って行じてくださったものが、いまそこに光り輝いており、仏の道を洋々と眺めながら、旅を結ぶことができました。

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