成寿一覧表

成寿 第42号 ●春彼岸法話
平成23年3月19日
善光寺住職 黒田博志老師

善光寺行事報告⇒

 皆様御元気でご参詣なによりでございます。
 「暑さ寒さも彼岸まで」という諺があります。御承知の通り彼岸は一年に春と秋二回巡って参ります。春分の日と秋分の日それぞれ前後三日間、あわせて一週間がお彼岸という行事でございます。
 この、二度の中日は太陽が真東から真西に沈みます。太陽の沈む方向に極楽浄土があるということから、日本ではこの日に浄土を想い亡き方を偲ぶ日になったともいわれております。
 太陽が沈むその先にある西国浄土に思いをはせた私たちの祖先は、太陽の恵みを受け、自然の流れの中で生活をし、その中には人間の力の及ばないものに対する畏敬の念が多く培われておりました。
 またこの日は、昼と夜が全く同じこの不可思議な現象と事象に感謝と報恩の念を尽し、神仏に敬意を払って参りました。
 八百万(やおよろず)の神と言われるほどに多くの神仏を礼拝し、たとえ一本の木や小石までにも願いをかけ、祈りを込めることができる感情の豊さ。四季折々めぐり来る風土で農耕し生活してきた社会に由来しているともいわれ国としても、この日を祭日として定め、祖先に感謝し自然をたたえ、生物を慈しむ日だとしています。民族学において、お彼岸は太陽を拝し、感謝と願をかけ、この期間目に見えないご先祖さまに思い致して報恩感謝の誠を尽くすという意味から墓参りであったり、寺詣りであったり、仏前にお参りするというのがお彼岸の慣わしとなっています。
 このお彼岸会という祀りごとは日本独特の文化なのです。

 仏教の始まりは約二千五百年前インドで興り、中国を経て日本に伝来したといわれています。しかし、インド、中国ではお彼岸にお寺参りやお墓参りの習慣はないのです。この習慣は日本独自の行事なのです。

 その起源は聖徳太子さまのころといわれておりますから千四百年にも亘る年中行事となっているのです。仏教が日本に伝わりましたのは六世紀半ばといわれいますそのころはじめて仏教を深く理解し人々に信仰心を厚くなされたのが有名な聖徳太子さまです。
 聖徳太子は生き方の指針、十七条憲法を制定し、その第一条に論語の中から「和をもって貴し」と示し、国家の役人として政務にあたる上での心がまえを説くとともに、第二条では仏教より「篤く三宝を敬へ」として、仏法を信じ敬うべきことを強調しております。これが日本國憲法の始まりです。
 ご存知の方もいらっしゃると思いますが、善光寺に太子像をお祀りしておりますが「どこにあるかご存知の方、ハイッ!」
 「そうです。仰せの通りこの釈迦殿の一階の正面右側に安置してあります。」
 師父は、聖徳太子さまは日本で最初に仏教を深く理解し広めたお方、そのご恩に報いる為にお祀りし毎日感謝のまことを捧げ尽くしておりました。私もそれを受け継ぎ毎日読経供養させていただいております。

 さて、このお彼岸に実践しなければならない六つの徳目がございます。
 それを六波羅蜜といいます。この徳目は、皆さまが、実践可能なものでなければなりません。古代インドのサンスクッリトでは、パーラミターと発音し、日本では「波羅蜜多」この意味は、到彼岸であり、彼岸に到るとなります。
 おや、これは「摩訶般若波羅蜜多心経」ではないかとお気付きと思います。そうなんです、この心経は「彼岸に行こう」という教えなのです。この六度が実践項目であり、仏教徒の目標なのです。いかがでしょうか。

 一つには、「布施」です。
 皆さまもこの言葉はよく耳にされると思います。布施とは、施すことなのです。一般的には、在家の皆さんがお坊さんに財物を施すことだと考えますが、これは財施といい、布施の一部です。お坊さん相手ではなく、他人にやさしさ、いたわり笑顔やことば、手を供えるのも立派な布施なのです。大事なのは、相手に恵んでやるという気持ちは布施ではありません。布施とは、させていただく心なのです。思いやりであり心遣いなのです。
 今盛んにくにの公共広告機構より「思いやり、心遣い。」いずれも目には見えないが、行動すれば見えると、盛んに放映されています。まさしくこれが布施なのです。

 二つ目は「持戒」です。
 戒めを持つと書きます。
 この徳目は、戒めを守るということです。人としてのルールを守ることが大事。しかし、戒を完全に守ることは過酷で不可能です。大事なことは、破ったときの懺悔と反省の気持ちの在り方です。
 日本の仏教では、僧侶に求められる菩薩戒という十六の戒めがございます。
 上座部仏教のタイでは二百二十七の戒めがございます。それはもう、非常に厳しく立つも坐るも、食べるも、眠るも、大変なことです。

 三つには「忍辱」です。
 この言葉は食べるニンニクではありませんよ。
忍ぶ辱めると書きます。
 寛容な心を持ち、いかなる境遇にも耐え忍ぶことです。
 お釈迦様は、人生は苦であるとお示しになられました。四苦八苦という語源はここのところからと言われています。ことに「生きる」世界を娑婆といい忍土ともいって生きるにとても辛いところであり他人から受ける迷惑をジーッと我慢して、耐えて忍びつつ生きる。そして他人を責めず赦しながら、これが忍辱だと申されているのです。
 とても難しい境遇であり、徳目なのです。心するだけで大変なんです。だから、おかれている立場立場で精一杯勤めていくのです。
 師父は私に、よく「人生は我慢だ」と言っておりました。子供のころよく師父に叱られ、その都度泣いておりました。すると時折、師父は私に向い「人生はなんだ?」と言います。わけのわからないままに私は、泣きながら「人生は我慢です。」と答える「では泣くな」といわれるのです。
 時として逆に、「博志我慢しなくてもいいんだよ」とも云う。要は心の持ち方を教えているように今は思います。
 人に我慢を強いるのは、難しくありません。強いる側に余程な思いやりがないと届くものではありません。やりたいことをやるな、やりたくないことをやれという。当時の私にすれば、あべこべ、ちぐはぐ、全くいじめとしか思えない。しかし、これが欲望を抑制する心を養ったように思います。心の持ち方で、地獄にもなり、極楽にもなる。娑婆で生きることは、とても大変なことでございます。

 四つには「精進」です。
 精らかに進むと書きます。この言葉は皆さまもよく耳にしますよね。
 怠ることなく一生懸命努力することです。何のために努力するのか、大事なことは目的地ではないのです。一歩一歩あゆんでいるその歩み。毎日毎日の生活こそが大事なのです。おろそかにしない努力。これが、精進だと思うのです。
 通説では、一心に仏道や仏事を修めることだといわれます。また肉食しないことも、精進のひとつ。

 五つには「禅定」です。
 禅を定めると書きます。
 この語は、心を穏やかにして真理を見極めることです。
 心を穏やかにするというは、意外と難しい。仏道でいう,禅定とは、精神を統一することをいい、迷いを断ち感情を鎮め、真実の仏道を求めこだわりや、とらわれから解放されることをいうのですが、簡単に参らぬが常です。あれこれと心が動きすぎるのです。
 油断しますと、自分のことばかり考えてしまいます。周囲を慮る心に欠けてしまうのです。
 私の日課は二つあります。坐禅と写経を毎日勤めることです。坐禅は時間が許す限り、朝晩勤めることにしています。
 心掛けていることは、
 一つに「調身」。身を整えることです。背筋を伸ばし右にも左にも片寄らずまっすぐに坐ること。
 二つには、「調息」。呼吸を整えることです。一つ一つの呼吸を丁寧にお腹を意識して深くゆっくりと行うことを心掛けています。
 三つには「調心」。自ずと姿勢と呼吸を整えれば自然と心も整って参ります。これがまさに禅定なのです。坐を移し日常行務に追われますと、すぐ心が乱れて参ります。残念です。
 そしてもうひとつは「写経」です。文字通り経典を写すことです。善光寺でも毎月「般若心経」の「写経会」を行っています。字数は二百七十六文字でございますので、一時間はかかってしまいます。日々、私の写経は「延命十句観音経」を謹んでおります。これは、わずか四十六文字です。だいたい十五分前後で尽くすことができます。
 私は、僧侶です。もしも私の日々に坐禅を怠るようなことになれば、私は、禅僧ではなくなります。これは、禅僧として生きる私の基本であり使命だと信念し、院代と共に少なくとも禅定という徳目の実践に精進しています。ここのところ、師父も厳しく申しておりました。

 六つには「智慧」です。
 この徳目は、物事を正しく判断し、処理する心の働き。ものの道理を知る賢明さ。それらを培うことです。
 これは前の五つを実践することにより自然と身についていくものだと教えて頂きました。今こうしてお話させていただくのも智慧の一部です。
 智慧は「般若」ともいい、サンスクリットでは、パンニャー、いわゆる「般若心経」のことだと教えています。いかにも善悪の業や因果の道理を説いてくれます。従って仏教は智慧の宗教だといわれる由来はここにあり事実を事実として、正しく観る目を養ってくれるのです。

 仏教の魅力もここにあるのかもしれません。私も日々悩み苦しんでおります。研鑽が足りないのだと思っています。人はなぜ生れて来たのか、どのように生きていかねばならないのか、真実の幸福とはいったいなんなのか。根本の問題に足踏みしているのが現状です。
 智慧が乏しく足りないのです。この一週間一日ひとつの徳目に傾注し、合わせて六波羅蜜、皆さまと共にこの徳目にとりくみ、智慧を高めて参りたいものです。
 どうぞよいお彼岸をお過ごしになられますように。
 ご清聴誠にありがとうございました。


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