成寿一覧表

成寿 第43号 〈育英生からの便り〉
■ドイツベルリンから活動報告

樋口 星覚(第24回育英生)


はじめに
 今、世界はきく変化しています。資本主義が行き詰まり世界中の人が人間らしい平和な暮らしを本気で求めています。
 永平寺での修行を経て、世界の禅堂を巡り、都市生活において修行をする中で、僕は人々の求めるものが道元禅師の教えにあること、本当の意昧でその心が世界に広がればこの星の平和は「夢物語」ではなくなることを確信し、禅の実践を続けてきました。
 先人達の変な努力のおかげで欧州でもようやく言葉だけではない「ZEN」の実践が広がりつつあります。現代社会が抱える問題を地球視野でとらえ、坐禅を通じて自分自身の日常生活から変えていき解決への道を示せば、禅の心は人から人へ世界中に広がるでしょう。

 以下に東西の文化が入り混じる国際都市ベルリンでの、2011年度の活動報告をさせて頂きます。この活動は独りではできません。有り難い助言を下さる先輩方、ともに修行し相談にのつてくれる法友達、家族、友人、いつもこの活動を支え応援して下さる全ての皆様のおかげです。この場を借りて厚く御礼申し上げるとともに、今後とも変わらぬ御支援、御指導を賜りますようお願い申し上げます。

【活動概要】
なぜベルリンで坐るのか
 世界中の人々が消費と欲望に疲弊する現代社会に辟易とし、心のやすらぎを「ZEN」に求めています。しかし欧米人特有の解釈により諸外国では「禅」が正しく伝わってないことが多いといわざるを得ません。ベルリンで禅の考え方に出会った安泰寺のネルケ無方老師がホンモノを求めてわざわざ来日し、兵庫県の山奥で修行していることが象徴的です。
 ベルリンでも坐禅の会があちこちにありますが、様々な独自の解釈や方法が混在し日本に行ったことのある人は稀です。独自の禅を試みることも大切ですが、その源になっている日本のお寺の良さを紹介し、知ってもらうことがより重要であると考えます。これまで日本仏教はカタチばかりでホンモノの仏教ではないと批判されてきました。しかし生活の中で無意識に伝わっている日本の「カタチ」こそ世界に伝える価値があると考えています。

 ベルリンに住みながら坐禅を続け、道元禅師の伝えたかったことを学ぶ人々を世界中から日本に受け入れる態勢を整え、また同時に日本の若い僧侶を海外に紹介して交流を深め、禅を世界共通の文化のひとつに育てたいと願っています。
 これが僕のやりたいこと、国際都市ベルリンで禅を伝えようとしている理由です。
 そのための基本は、朝早く起きて坐禅をし、丁寧に食事をし、掃除をし、陽が沈んだら眠る。生活をわかちあい、他人の話を聞くことです。当然のようですが毎日実践するのは容易ではありません。様々な背景を持つ人が共存する都市ベルリンで、多くの人の協力を得てこれを継続できたことが最も大きな成果でした。現代生活で悩んでいるたくさんの人々の声を聞き、禅の実践を通じて応えることもできたのも、この基本を大切にしたからです。
 一方、世界中で未だに戦争が絶えず、日本国内だけでも原発をはじめ様々な問題が未解決のままです。現地の生活からより多くを学び、広く世界を知り、長期的な視野で目標に取り組んでいくこと、実際に生活で悩んでいる人の不安や苦しみに耳を傾け、行動して行くことが必要であると感じました。
 身体と心を通じて、気づきの和を広げていけば必ず世界は変わって行きます。世界中の本気で禅を学ぶ意志のある人達が、よい師匠を見つけて修行ができるように活動を続けていきたいと思います。

【活動詳細】
〈滞在許可の取得〉
 日本人が滞在許可なしにドイツにいられるのは通常90日以内です。5月10日にベルリンに到着してから二カ月以上かかってようやく一年間の滞在許可を得ることができました。一番苦労したのが提出が義務づけられている収入の証明です。雲水にはそもそも現金による生活の証明などありません。社会と個人のあり方について考えさせられました。

〈保険の加入〉
 さらに苦労したのが保険です。外国人は非常に高額な保険にしか加人できません。妊娠中だった妻は幸運なことにご縁のあった産婦人科のお医者さんが検診を無償で引き受けてくれ、十月に無事元気な男の子が生まれました。保険制度は相互扶助の大切な仕組みですが、今大きな社会問題にもなっています。お金に関係なく多くの人が智慧を出し合い困っている人を助け合える社会ができないものでしょうか。

〈アパートの禅道場〉
 10月には三つの部屋とキツチン、トイレ、廊下があるアパートが見つかり、中国製の畳を十二枚部屋に運んで小さな道場を開くことができました。一部屋を居住スベースに、一番きな部屋を坐禅堂、隣の部屋を参禅者控え室にして日本から坐蒲や応量器を運んで少しずつ道場を調えています。道場には「雲堂」という名前をつけました。参禅は勿論、いつでも参龍(泊まり込みの参禅)ができるようになっており半年間のうちに21名が道場で寝食をともにし、都市生話の中での禅の実践を体験しました。

〈食事と経済〉
 ベルリンでは家賃光熱費以外にお金をほとんど使いません。人々は贅沢に興昧がなく、自由な価値観で質素誠実さを楽しみながら暮らしています。民族や思想にとらわれない老若男女は、家族友人と団欒する時間をとても大切にします。道場では平日は毎朝お粥とごま塩、浅潰けの応量器飯台です。食事は必ず来てくれた人全員で分け合って頂くことにしています。次第にみなが何かを待ち寄って食事を楽しむようになりました。「奪い合えば足りない、分け合えば余る、待ち寄れば笑顔」御布施の考えは万国共通で人々の心に響くようです。

<一日の生活〉
 雲堂の生活は開枕から始まります。夜9時を過ぎたら什物を元の場所に戻し、翌朝の準備をしてから床につきます。朝起きて洗面、東司、雑巾がけをして一炷。六時から参禅者を迎え。六時半に止静。その後朝課、応量器飯台です。お茶を飲んで禅語を英語で紹介し、参禅者は仕事に向かいます。11時から日中、18時からは夜の坐禅があります。時には参禅者がおらず独りで坐ることもあります。昼からは散歩や、家族と友人宅に遊びに行き、公園や湖に出かけます。パソコンを使って作業することも多いです。

〈悩みに応える〉
 坐禅ばかりでなく、参禅者との交流、毎週のブログ更新、問い合わせへの対応などの作務もしなければなりません。最近は葬儀や相続の相談など、家族関係や生き方に悩んで相談して下さる人もいます。数が多くはないので、一人一人に真剣に向き合い一緒に悩んでいます。

〈禅を伝える〉
 乞暇してから毎年必ず永平寺の摂心に随喜し、先達の指導を仰ぎながら禅を伝えるように心がけています。一時帰国の際は各地の寺院を訪れ、話を聞いたり、さらに週末を利用して首都圈から北陸の禅寺に修行体験に行く「禅の旅」を開催しています。
 また、伝統的な活動だけでなく、現代生活にあった様々な活動に挑戦し、より多くの人々が様々な角度から禅に気づくきっかけを持てるように工夫しています。

課題と対策
 一年間ベルリンに住んで課題も見えてきました。現在は活動のほとんどが英語ですが、ドイツ語をマスターして現地の人と心から意思疎通ができるようになりたいです。その為に今年はVolksschuleと呼ばれる国立ドイツ語学校に通う予定です。次に継続して坐る人を増やすことです。ベルリンでは禅は日本と同じような説明では理解されず、一度道場に来て続かない人も多くいました。ZENに限らず剣道やチベツト仏教、韓国仏教などの現地道場に通い、長期的な視野でホンモノを伝えるために必要なことを学びたいです。即効性がないことでも坐禅を続けてもらえるように根気よく実践します。
 最後に日独交流関係の構築です。志のあるドイツの人達が本気で禅を学べるように、国内外の道場を紹介し、師匠について修行するきっかけをつくることを活動の中心とし、多くの方々の意見を聞きながら準備をすすめたいと思っています。禅に親しみ、その心を理解してくれる人が増えるように願わずにはおれません。そうすれば日本はこれまで以上に世界中から尊敬され、愛される国になるでしょう。

おわりに
 多くの人々がお金が支配する社会に限界を感じ、新しい生活のあり方を求めています。代々続いてきた禅の智慧の中にはそのヒントがたくさんあります。禅の生活の実践を通じて思想や言葉によらない「気づき」を世界中に広げることで、人々の悩みや苦しみに応えることができます。この「気づき」はますます多くの人達に理解され始めていると感じています。志のある人がつながり、ともに道を学び、表現できない想いを伝え、気づき、変わっていけばより多くの人が幸せに暮らすことができるのではないかと感じています。ここをいい星にしましょう。




◇育英会寄付者 ◇成寿賛助
■平成24年度 ■平成25年度
江東区 西谷 恒 殿 泉区 博久 殿
港南区 池田 耕三 殿 長野県 龍洞院 殿
横須賀市 植田 ムメ 殿
旭区 沼倉 みのる 殿
港南区 佐二郎 殿
長野県 正眼院 殿
神奈川区 滝沢 孝子 殿
港南区 桂川 正克 殿
西多摩郡 宮田林産 殿
港北区 瀧澤 武雄 殿
港南区 有里 殿
■平成25年度
大田原市 光真寺 殿
新 宿 区 東亜建設 殿
台 東 区 翠雲堂 殿
港 南 区 熊谷 豊太郎 殿
磯 子 区 國廣 敏郎 殿
磯子区 越石 重博 殿
港南区 鳥居 秀行 殿
柏市 伏見 邦弘 殿
相模原市 大野 孝雄 殿
川崎市 宮田 富夫 殿
金沢区 下田 恒治 殿
都筑区 阿部 匡宏 殿
平塚市 山口 義男 殿
高槻市 東郷 敏 殿
町田市 鈴木 幸雄 殿
緑区 豊島 節夫 殿
鹿児島県 東郷 公 殿
船橋市 村田 一夫 殿
栄区 保雄 殿
世田谷区 富田 繁 殿
港南区 伊藤 卓也 殿
保土ヶ谷区 半澤 範之 殿
旭区 沼倉 みのる 殿
綾瀬市 新舘 杲 殿

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